テッペーザ (甲状腺眼症の新治療薬)
「テッペーザ」は、2024年9月に日本で新しく承認された活動性甲状腺眼症の治療薬です。活動性甲状腺眼症の治療には、これまで手術かステロイド療法,放射線療法しか方法がなかったこともあり、テッペーザの登場はおおいに期待されています。
一方で、副作用や使用制限には注意が必要で、治療前にリスクを理解し、医師の指示に従うことが大切です。本記事では、テッペーザの作用や治療の流れ、注意点について詳しく解説します。
目次
テッペーザとは

テッペーザは、「テプロツムマブ」という成分を主成分とする活動性甲状腺眼症の治療薬です。
アムジェン株式会社が製造・販売しており、日本では2024年9月に承認されました。
甲状腺眼症治療の新しい選択肢として注目されているお薬です。
テッペーザの作用と効果について
テッペーザに含まれる成分は以下のとおりです。
成分 | 1バイアル中の含有量 | |
有効成分 | テプロツムマブ(遺伝子組み換え) | 524mg |
添加剤 | L-ヒスチジン | 8.19mg |
L-ヒスチジン塩酸塩水和物 | 35.02mg | |
ポリソルベート | 1.10mg | |
トレハロース水和物 | 1040mg |
主成分であるテプロツムマブには、体内の免疫をコントロールする働きがあります。
具体的には「インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)」という、細胞の成長を促す指示を受け取る物質と結合し、その伝達を阻害します。この働きによって、眼の周囲の組織が線維化し、硬くなってしまうという甲状腺眼症の症状の発現を抑制できます。
そもそも甲状腺眼症とは
「甲状腺眼症」とは、免疫異常による疾病です。免疫系が誤って甲状腺を刺激する抗体を作ってしまい、甲状腺刺激ホルモンの受容体(TSH受容体)やインスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)を攻撃します。その結果、眼の周りの組織に炎症が発生し、腫れやむくみ、過剰なコラーゲンの生成と線維化などが起こるのです。具体的には、次のような症状が見られます。
・まぶたの腫れ:眼の周囲の組織の腫れやむくみによって起こる
・眼の充血:眼の周りの組織の炎症によって起こる
・眼球の突出:眼球を動かす筋肉である外眼筋が腫れることで、眼球が押し出される
・視力低下:眼の周りの組織の腫れやむくみにより、眼の神経の圧迫により起こる
・ものが二重に見える:眼の周り筋肉が硬くなり、うまく動かせないために起こる
テッペーザによる治療方法
テッペーザによる治療は次のように進めるのが一般的です。
初回 | 体重1kgあたり10mgを90分かけて点滴を通して静脈に注射 |
---|---|
2回目 | 体重1kgあたり20mgを90分かけて点滴を通して静脈に注射 |
3回目以降 | 3週間ごとに合計8回、体重1kgあたり20mgを点滴を通して静脈に注射。時間については、2回目までに異常がなければ60分に短縮可能 |
テッペーザによる治療を受ける前に注意する点

テッペーザの使用には注意点もあります。治療を受ける前に、次のことを知っておきましょう。
治療を受ける前に注意する点
テッペーザには副作用もあるため、適用に問題ないかを判断するために、通常、次のような検査をおこないます。
・聴力検査:副作用として聴覚障害が起こるケースがあるため
・血糖値の測定:高血糖や糖尿病が現れるケースがあるため
・妊娠検査:妊娠中の方は使用できないため
安全に治療を受けるためにも、必ず医師の指示に従い、検査を受けましょう。
効果だけでなくリスクも理解した上で治療に臨むことが大切です。
テッペーザを使用できない人
次に挙げる方は、テッペーザの使用はできません。
・妊娠または妊娠している可能性がある方:胎児に影響する可能性があるため
・授乳中の方:母乳に薬剤の成分が移行する可能性があるため
・小児:臨床試験を実施していないため
テッペーザの使用に注意が必要な人
次に挙げる方の場合、テッペーザの使用は禁じられてはいませんが、十分に注意する必要があります。
・聴覚障害のある方:聴覚障害が悪化するリスクがある
・糖尿病、または耐糖能異常のある方:症状が悪化するリスクがある
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)のある方:症状悪化のおそれがある
・妊娠する可能性のある女性:胎児へ影響するリスクがあるため、投与中、最終投与から5ヵ月は避妊が必要
・高齢者:一般的に生理機能が低下していることが多い
・ほかの薬を服用中の方:相互作用によって効果が強まりすぎたり、逆に弱くなったりする可能性がある
治療中の注意点
治療中も聴力検査、血糖値、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー・血液中のブドウ糖がヘモグロビンと結びついてできる糖化ヘモグロビン)の検査が定期的におこなわれます。副作用の発現リスクを抑えるためにも、医師の指示に従い、適切に検査を受けるようにしましょう。
また、ほかの薬剤との相互作用にも注意が必要です。別の医師による診察を受ける場合や、ほかの薬を購入する際には、テッペーザを使用中であることを医師や薬剤師に伝えるようにしましょう。
治療後の注意点
活動性甲状腺眼症は、治療後の経過観察も重要です。テッペーザの使用によって症状が緩和されても、完治したわけではないからです。
病気の進行を遅らせることで改善しただけであり、再発する可能性もあります。再び悩まされないためにも、医師の指示に従って受診するようにしましょう。
テッペーザの副作用について

テッペーザの服用によって、次のような副作用が現れる可能性があります。
聴覚障害 | 聞こえづらい、耳鳴りがする、耳が詰まる感じがする、など |
---|---|
高血糖や糖尿病 | 体のだるさ、喉の乾き、体重減少、水分の大量摂取、尿量の増加 |
アレルギー反応 | 悪寒、発熱、意識の低下や消失、めまい、嘔吐、せき、まぶたや唇、舌の腫れ、呼吸困難、動悸 |
これらの症状が見られた場合は、すぐに医師に相談してください。
治療の流れ
テッペーザによる治療は、一般的に以下のような流れでおこないます。
1
治療前の準備
・聴力検査、血糖値などの検査、妊娠検査
・医師による効果や副作用についての説明
2
治療開始
3
治療中
・随時目や甲状腺機能の症状を確認
・4回点滴後と8回後に聴力検査や点滴のたびに血糖値などの検査をおこない副作用の発現をチェック
4
治療後
・必要に応じて追加治療の検討
料金

テッペーザの料金は500mg・1瓶あたり979,920円です。具体的な費用は、体重、治療回数によって使用量が異なるため、患者様によって異なります。詳しい料金は直接医師に尋ねてください。
テッペーザの治療費は、健康保険の適用対象となる場合があり、加入している医療保険の種類によっては 高額療養費制度 や 付加給付制度 を利用することで、自己負担額を軽減できる可能性があります。また、年間の医療費が一定額を超えた場合、医療費控除 を申請することで所得税の一部が還付されることがあります。詳細は、加入している健康保険組合や税務署にお問い合わせください。
高額療養費制度の適用と治療期間による費用の違い
テッペーザの治療スケジュールは 初回投与を1~3日 に開始した場合、5か月間で全8回の投与を完了するスケジュールとなります。一方で、初回投与を4日以降 に開始すると、6か月にまたがって治療を受けることになります。この違いによって、適用される高額療養費制度の自己負担額の計算期間が変わり、総額負担が異なるケースが発生する可能性があります。
高額療養費制度は 1か月(1日~月末)ごとに適用されるため、5か月で完了する場合と6か月にまたがる場合では、月ごとの自己負担額の上限や合計負担額に差が生じることがあります。治療開始時期によって自己負担額がどのように変わるかについては、事前に医療機関や健康保険組合に相談することをおすすめします。
【例】
1~3日に治療開始 → 5か月間で治療終了 → 5か月分の高額療養費制度適用
4日以降に治療開始 → 6か月間に治療が分散 → 6か月分の高額療養費制度適用

理事長 本間 理加 医師