アドオン眼内レンズ
現在の白内障手術において、摘出した水晶体の代わりとして挿入する「眼内レンズ」には様々な種類・タイプが存在します。
保険診療の対象となる「単焦点眼内レンズ」から、一部保険適用の「選定療養の多焦点眼内レンズ」、「自由診療の多焦点眼内レンズ」まで、豊富な選択肢の中から、患者さまのご希望の見え方に合わせて眼内レンズを選べます。
しかし、現在白内障手術は年間160万件以上実施され、非常に多くの方が受けられていることから、中には眼内レンズによる十分な矯正力を得れない場合や、術後に屈折異常(近視・遠視・乱視)が残ってしまう患者さまもいらっしゃいます。
このように見え方に不満があることで老後のQOL(生活の質)を損ねてしまう可能性もあり、「裸眼でもっと見えるようになりたい」、「単焦点眼内レンズを挿入したが多焦点眼内レンズに変更したい」といった患者さまのご要望もあります。
そのような方に向けて従来では、「眼内レンズの交換」や「レーシックによるタッチアップ」という治療方法が主流でしたが、再手術による身体への負担や合併症のリスク、適応条件等の問題点がありました。
現在では、既に挿入した眼内レンズに対して、追加でレンズを挿入することで見え方を再調整できる「AddOn IOL(アドオン眼内レンズ)」が登場し、従来の治療方法に変わる新しい「追加矯正方法」として注目されています。
この記事では、アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)のメリットやデメリット、費用について解説します。
目次
従来の白内障手術後の見え方の再調整方法
・眼内レンズの交換
眼内レンズの交換は可能ではありますが、摘出時に合併症を伴うリスクがあり、身体に負担のかかる手術のため、安易に行えません。
白内障手術後1ヶ月ほど経つと、眼内レンズが水晶体嚢(レンズが入る袋)に癒着し、摘出する際に他の目の病気を引き起こす可能性が高くなります。
万が一眼内レンズを交換を検討する場合は、目の状態や癒着するまでの期間を慎重に考慮し、白内障手術後の早い段階で交換手術を行う必要があります。
・レーシック(LASIK)によるタッチアップ
白内障手術後に残った屈折異常(近視・遠視・乱視)をレーシック(LASIK)によって、レーザーで角膜を削って厚みを調整することで、屈折異常を矯正する方法があります。
タッチアップとは「小さな修正」を意味し、矯正度数の微調整が得意であるレーシックで、術後の見え方を調整できることから、白内障手術後の屈折矯正の主な選択肢として挙げられます。
しかし、レーシックでは十分な角膜の厚さがないと手術が適応外になってしまうことや、一度削った角膜は元に戻すことができない「不可逆な手術」として、デメリットもあります。
アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)
「アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)」とは、既に挿入されている眼内レンズの上に、追加のレンズを挿入することで、白内障手術後に残った屈折異常を矯正できる治療方法です。
従来の白内障手術後の再矯正方法のデメリットを払拭し、患者さまのご希望の見え方に近づけることができます。
現在の眼内レンズを摘出する必要がなく、追加でアドオン眼内レンズを挿入することで、眼内レンズの交換のように摘出時に合併症を伴わず、身体への負担の少ない「低侵襲」な手術方法です。
また、削った角膜を元に戻すことのできない「不可逆な手術」であるレーシックと異なり、万が一の際は追加したアドオン眼内レンズのみを摘出できる「可逆性の高い手術」です。
アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)の種類
アドオン眼内レンズの種類は主に3つあり、白内障手術後に残った屈折異常(近視・遠視・乱視)を再矯正するタイプから、既に挿入している単焦点眼内レンズに対して多焦点眼内レンズの機能を付与するタイプがあり、患者さまの見え方のお悩み合わせて選択できます。
・Add-on refractive(単焦点)
近視または遠視の度数調整をメインとします。
「単焦点=焦点が合う距離が1箇所」なので、現在のレンズからピントの合う範囲を増やすことはできません。
・Add-on toric(単焦点乱視用)
近視や遠視に加えて、乱視の度数を調整できます。乱視のみの度数調整も可能です。
・Add-on progressive(多焦点)
単焦点眼内レンズを挿入している方でも、アドオン眼内レンズによって多焦点眼内レンズ同等のピント調整機能を得ることができ、2箇所以上の焦点距離にピントを調整することが可能になります。
加入度数は「+3.0D」の1種類となり、手元の焦点距離は50cm程度となります。
アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)の
メリット・デメリット
従来の白内障手術後の矯正方法のデメリットを払拭しているアドオン眼内レンズですが、特有のデメリットもあります。メリット・デメリットそれぞれを理解した上で検討することが大切です。
メリット
・白内障手術後に十分に得れなかった視力を補える
白内障手術後に残ってしまった近視・遠視・乱視などの「屈折異常」を矯正し直すことが可能です。
・メガネや老眼鏡の装用機会を減らせる
白内障手術で単焦点眼内レンズを選択し、メガネや老眼鏡を使用していた方も、多焦点アドオン眼内レンズを挿入することで、メガネや老眼鏡への依存度を減らすことができます。
白内障手術で、多焦点眼内レンズを挿入した場合と「同等」程度の見え方が実現でき、裸眼での日常生活を送ることも可能になります。
・万が一の際は摘出が可能(=可逆性がある)
白内障手術後に屈折異常が残った場合、レーシックによって角膜を削って再矯正することができます。
しかし、レーシックによって一度削った角膜は復元することはできません。
アドオン眼内レンズは万が一の場合は「摘出可能」で、元の状態(白内障手術後直後)に戻せます。
また、毛様体(虹彩と既存レンズの間)に挿入することから、アドオン眼内レンズ自体が水晶体嚢に癒着することはありません。
デメリット
・保険適用外の自由診療となる
アドオン眼内レンズは厚生省未承認の「自由診療」のレンズとなります。
そのため、健康保険が適用されず、手術費用はレンズ代も含め「完全自己負担」となります。
国内では未承認ですが、欧州(EU)では安全基準を満たす製品に付与される「CEマーク」を取得しています。
当院では海外での評価や実績を踏まえ、術後の成績やメリット・デメリットなどを考慮し、アドオン眼内レンズを導入しております。
・屈折異常がわずかに残る場合がある
アドオン眼内レンズを使用しても、屈折異常を完全に矯正することは困難で、わずかに屈折異常が残る場合があります。
アドオン眼内レンズ(乱視用)のデメリット
・レンズがズレた場合は再手術が必要
アドオン眼内レンズは目の中の組織に癒着せず、摘出可能なことがメリットです。
しかし、完全に固定されていない分、外からの衝撃が加わるとレンズが目の中で回転することが稀にあります。
乱視用の「トーリックレンズ」の場合、精密な術前検査データに基づいた位置にレンズを配置しなければなりません。
乱視の矯正はレンズ配置の精密さが要求され、少しでも配置がズレることで十分な矯正効果が得られなくなり、再手術によるレンズの位置調整が必要です。
アドオン眼内レンズ(多焦点)のデメリット
多焦点眼内レンズは複数の焦点へのピント調整を可能にするため、複雑なレンズ構造を有している分、特有のデメリットがあります。アドオン眼内レンズ(多焦点)でも同様のデメリットが生じます。
・ハロー・グレアの症状の発生
光に輪がかかったように滲んで見える「ハロー」や、光がぎらついたように眩しく感じる「グレア」といったような光の見え方への違和感を感じます。
・見え方の質の低下
多焦点用レンズは、目の中に入ってきた光をレンズ構造によって、それぞれの焦点距離へ配分することで、複数距離へのピント調整が可能になります。
しかし、入ってきた光100%全てを配分することはできず、光の配分時に一部の光エネルギーが消失してしまいます
この光エネルギーのロスが原因となり、コントラスト感度(見え方の質)が低下します。
・見え方に順応するまで時間がかかる(個人差あり)
多焦点眼内レンズは水晶体本来の見え方を補完することができず、多焦点眼内レンズ独自の見え方(ピント調整機能)に慣れるまで時間を要します。
人によって差が現れますが、3〜6ヶ月ほどで見え方に慣れる場合がほとんどです。
アドオン眼内レンズ(AddOn IOL)の費用
アドオン眼内レンズ(単焦点) | 【片眼】470,000円(税込) |
---|---|
アドオン眼内レンズ(多焦点) | 【片眼】620,000円(税込) |
アドオン眼内レンズ(乱視特注) | 【片眼】620,000円(税込) |
手術関連の全ての費用(術前検査、手術、レンズ代、術後診察代、お薬代)および以下のサポートが費用内に含まれております。
・手術前検査費用
・術後1ヶ月検診費用
※自由診療となるため、保険は適用されません。
まとめ
アドオン眼内レンズは他の白内障後の再矯正方法よりも、低侵襲でリスクが少なく、享受できるメリットの大きい追加矯正方法です。
白内障手術後の見え方でお悩みの方や、眼内レンズの選択で後悔している方も、アドオン眼内レンズによって希望の見え方に近づけることが可能になりました。
当院でも、アドオン眼内レンズを導入しておりますので、白内障手術後の見え方で不満をお持ちの患者さまには、入念な視力測定を行い、ご希望の見え方をヒアリングした後、アドオン眼内レンズを提案させていただくことがあります。
また、現在片目のみ白内障手術を受けられている方や、これから白内障手術を受ける方は、術前に想定していた見え方と術後の見え方でギャップが生じないよう、それぞれの眼内レンズの特性を知った上で、患者さまご自身のライフスタイルに合わせて選択することが大切です。
当院院長は、累計1万件以上の白内障手術の実績と多焦点眼内レンズを用いた症例にも豊富な経験を持っております。
また、当院では豊富な眼内レンズのラインナップを揃えることで、幅広い患者様ニーズに応えられる体制を整えています。
白内障手術後の見え方で不満のお持ちの方、単焦点眼内レンズを挿入したがメガネや老眼鏡の装用機会を減らしたい方は、お気軽に当院へご相談ください。
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理事長 本間 理加 医師
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